僕がまだ映像関係の会社に勤めていた1980年代、東銀座のオフィスのすぐ近くにマガジンハウスの本社がありました。そこの中二階には、世界中の何百種類もの雑誌が自由に閲覧できる雑誌の図書館があり、足繫く通ったものです。まだインターネットなど影も形もない時代、海外の最新情報を得るにはまたとない場所でした。
ある日そこで、イタリアの自然科学雑誌をパラパラとめくっていたら、一枚の写真に目が貼り付けになりました。真っ白い鍾乳石が林立する間を、タンクを背負った人間が宇宙遊泳のように空中を漂っています。水中洞窟の様ですが、水は全く見えません。水の透明度が極めて高いのでしょう。何という美しさ!僕はさっそく件のページをコピーしてもらい、調査を開始したのです。

「セノーテ」の内部を進むダイバーJ.C.氏
場所はメキシコのユカタン半島。古代マヤ文明が花開き、17世紀に滅亡した舞台です。マヤの伝説では、地底には水の神チャックが支配する巨大な地下世界があり、ジャングルの中に点在する「セノーテ」と呼ばれる泉がその入り口とのこと。
ユカタン半島は秋吉台の数百倍もある石灰岩のカルスト地形で、地下には穴開きチーズのように無数の空洞が迷路のように張り巡らされています。そこを大量の地下水が流れているのです。世界の古代文明は、メソポタミア文明のチグリス・ユーフラテス川、エジプト文明のナイル川、インダス文明のインダス川、中国文明の黄河など、大河の流域に栄えました。水は人間が生きるのに必須のものだからです。しかし、マヤ文明の地には目立った川がありません。実は川は地下にあったわけです。
現地には、この地下の大河を探検するプロフェッショナルたちがいます。彼らの助けが無ければ、内部の撮影など全く不可能。中でもとりわけ名手と言われるダイバーのJ.C.氏と連絡がつき、協力を依頼、快諾を得ました。氏によると、洞窟の奥には原始的な甲殻類や、目の退化した真っ白な魚など、不思議な生きものもいるといいます。ほぼ毎日セノーテに潜り、未知の領域を探索している彼らのチームに水中カメラを託せば、成功はほぼ間違いなしです。

ジャングルに開いた穴 これが地下迷宮への入り口だ
ところが、ここで一つ難問が生じました。テレビ局のプロデューサーから、日本人のダイバーを参加させ、その印象を本人の口から伝えて欲しいという要望。真っ暗な洞窟の中、しかも何かアクシデントがあっても水面上に浮上することはできません。ケーブダイビングには、独特の技術が必要で、そのため海のダイビングとは全く別の専門ライセンスを取得しなければならないのです。そんなものを所持しているダイバーなど、当時の日本には一人もいません。それならいっそのこと、ライセンスを取得するところからドキュメンタリーを撮り始めよう考えました。
そしていろいろ伝手をたどって行き着いたのが、当時弱冠28歳の若き水中写真家、内山りゅう氏でした。あれからおよそ35年、内山氏はいまや日本を代表する淡水専門の水中写真家になりました。彼はこの8月16,17日に下松市と岩国市で講演と観察会を開きます。お時間がある方は、ぜひご来場ください。

「水の中から世界を見る」
ネイチャー・フォトグラファー内山りゅう氏の講演と名水を味わう会
予約 株式会社 桜雲洞 ウェブ申込
TEL 0834-22-2331 Mail info@ounto.jp
ネイチャー・フォトグラファー 内山りゅうさん、自然ドキュメンタリーディレクター 松林明さんと一緒に
水の中に世界を見る 体験!川ンダーランド
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