以前にもこのコラムに登場した、カナダ北極圏在住のカメラマンで友人のアランから、ドキュメンタリーの最新作が届きました。彼のこれまでの、北方先住民や野生動物をテーマにした作品とはガラリと変わり、意外にもニューヨークに関するもので、昨年暮れに亡くなったお兄さんを追悼する内容です。撮影されたのは2009年。カメラは都市地理学の教授だったお兄さんが、教え子にレクチャーしながらマンハッタンを巡るのに密着しています。
冒頭いきなり出てくるのは、トランプタワー。そのころはまだ、ドナルド・トランプが将来大統領になるとは、多くの人が予測していなかったのではないでしょうか。機能一辺倒の日本の高層ビルに較べ、そのアヴァンギャルドさに驚きます。

トランプタワーとお兄さん(URBAN CODE.より)
僕自身はこれまでNYには3回行っています。
最初は1977年。まだ大手映画会社に勤めていたころ、映像買い付けのためでした。そのとき、現地駐在員からぜひ見ていきなさいと勧められたのが、空前の大ヒット中だった「スターウォーズ」第1作。それまで長い間ハリウッド映画は衰退し、代わってヴェトナム戦争で病んだアメリカ社会を反映したアメリカンニューシネマが次々と生み出されていました。だから、僕はSF大作の久しぶりの大ヒットにハリウッド復活を強く感じたと同時に、ヴェトナム停戦後2年、深く傷ついたアメリカの人々が、無邪気な冒険活劇に熱狂することで、悪夢から逃避しようとしているのだと思ったのです。
中でも主人公が柔道着に似た衣装で、侍の様に光線の剣を振りかざす様は、悲惨な戦争を生んだ西洋文明の行き詰まりを、東洋の神秘主義によって超克しようとする、西欧社会の願望を反映しているように感じました。

2回目は1991年。同僚たちがNYのグルメ番組を企画していたものの、アメリカの撮影ビザが取得できず、ロケ出発の前日、急きょ代役を頼まれたのです。当時、僕はメキシコの地底湖に潜水する番組の準備で忙しかったのですが、予定を変更してNYへ向かいました。結果、ハーレムのソウルフードからチベット人のレストランまで、様々なマイノリティに活躍の場が開かれた国際都市を体感できたのはとても楽しかった。
しかし、この時の滞在で何と言っても今も忘れ難いのは、ワールドトレードセンターの最上階にあるレストランの撮影です。もちろん当時は、10年後にこのビルが、イスラム原理主義のアルカイーダによって破壊されるとは夢にも思いませんでしたが。

ワールドトレードセンター最上階からのマンハッタンの夜景
3回目は1998年。ベネズエラでのロケハンからの帰路、数日間滞在しただけでした。特に印象深いことはありません。ワールドトレードセンターが崩壊する3年前です。
If I can make it there (もし あそこでやれるなら)
You know I’m gonna make it anywhere (どこでもうまくやっていけるって)
It’s up to you (すべては自分次第さ)
New York, New York New York !(ニューヨーク ニューヨーク!)
と、昔フランク・シナトラは歌っていましたが、今もそうなのか?残念ながら、以後、僕にはNYに行く機会がありません。