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名を冠する – 嗜好のけんちく〈6〉

宇部市渡辺翁記念会館について書く。

欧米では文化に寄与した地域の偉人、文化の発展のために多額の寄付をした人物の名を施設に冠し、その偉業を後世に語り継ぐことがある。日本では東京大学の安田講堂など教育施設にいくつか見られる。最近では公共施設でネーミングライツを取得した企業名や、観光目的から高知龍馬空港といった形で歴史上の偉人の名を公共施設に冠することはあるが、これらは少し意味合いが異なる。

そんな中、山口県宇部市には戦前より地域の文化施設に人名を冠した施設がある。それが宇部市渡辺翁記念会館である(そういえば昨年末は最強の名字「渡辺」が話題に、、、)。

UBE(旧宇部興産)の前進、沖ノ山炭鉱組合の創業者で、宇部市発展の父と言われる渡辺祐策(すけさく)氏の死後、彼の功績を顕彰するために昭和12(1937)に建設された、西日本で最も歴史のある音楽ホールの一つ。建築家村野藤吾の設計による日本におけるモダニズム建築の代表作の一つであり、村野自身も「私の出世作」と語る。ロビーには県内産の大理石をふんだんに使い、水や船を彷彿させるデザイン、時代性を反映してかロシア構成主義やファシズム建築の特徴的な意匠を館内のいたるところに見ることができる。

ホールは音響性能に優れ、現在でもクラシックのコンサート他、数多くの文化イベントが開催される地域の文化の象徴だ。村野作品では初めて重要文化財に指定された。

(昭和から平成にかけて活躍した建築家の作品も文化財に指定される時代になってきた。県内ではもはや原形を留めていない村野作品もあるが、宇部市には今でも当時の雰囲気を残し、市民に大切に使われている村野作品がいくつか残っている。)

記念館では誰でも参加可能な見学ツアーがあり、ロビーやホールだけでなく貴賓室や屋上、地下やステージ裏なども見学できる。職員の方の親切な案内や時にサプライズもあり、時間が許せばぜひ参加してもらいたいツアーだ。

隣接する同じく村野設計の宇部市文化会館(昭和54)では、毎年、人気落語家の落語会がいくつか開催される。毎春の春風亭一之輔独演会では、師匠の毎回恒例の会場イジり。「同い年のこの会場の老朽化、毎年来るたびに自分を見るような、、、(会場爆笑)」「ここ(舞台)から見る、干からびた油揚げの色をした客席のシート、、、(会場爆笑)」。文化会館の大規模改修に伴い、昨年からは渡辺翁記念会館での開催となり、「同い年のホールは改修という事で、自分もそんな歳かと切ない思いもありつつ、今年は綺麗なホールかと思ったら、もっと古いじゃねぇかっ!そんな会場しかないんですかねぇ、、、(会場爆笑)」。

そこに「ある」という積み重ねが、年を追うごとにより深くより濃いものになっていく。施設もイベントも落語会も文化も。確かに古い施設ではあるが、山口県宇部市に変わらずあり続けてくれたことの価値は、計り知れない。渡辺さんに大感謝(宇部市民の方々にも感謝)。やはり最強。

 

宇部市渡辺翁記念会館:https://wmh.ube-bunzai.jp

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