2018年に島根の出雲大社に行った時に驚いたことことがある。あれっ!?無いっ!?日本を代表する建築家菊竹清訓(1928-2011)の代表作で、大学の授業でも必ず名作中の名作だと教わる出雲大社庁の舎。以前来た時にはあったのに、場所間違えた?記憶違い?もう一度敷地内をぐるっと回って探したけど、無い。スマホで検索したら2016年に解体して新たな庁舎に建て替えられていた。「あぁ、名建築と言えども無くなるんだ」と驚いた。
令和になって、昭和の建物も文化財指定される時代になった。日本の建築家による現代建築も指定されている。そんな中でどんなにエポックメイキングな建築でも、いろいろな事情があるので残らないものは残らない。近くにある名建築は、見れるうちに見ておきたい。
山陰には先述の菊竹清訓による作品がいくつもある。萩市には菊竹設計による萩市民館(1968)と萩市役所(1974)の二つの建築が並んで今なお現役で使われている。
萩市民館について書く。
もう少しで竣工して60年の市民館はコンクリートを基壇に見立て、その上に白い大きな天蓋が載る構成で、内部は大ホールと小ホール、当時としてはとても広いロビー、会議室や講義室、実習室などを併設し、さまざまな市民活動のための場として設計された。当初の姿をほぼ残して今でも萩の街並みや文化を彩っている。萩は歴史の街として知られ、市内には重要伝統的建造物群保存地区に指定されたエリアも4箇所(市町村別では京都市に並んで最多タイ)ある。そんな地方都市にこんな建築ができた当時は、どんなにセンセーショナルだったろうか。
詳細な解説は専門書に譲るが、杉板型枠による板目・木目が転写され、リブの凹凸が連続するコンクリートの壁面、空調ダクトまでコンクリートでできている。上を見上げれば鉄骨で組まれたたっぷりとした広い天井空間とたくさんの電球が連なる照明。大ホール内も同様。宇宙船の内部のような、迫力のある空間。そんな迫力ある現代建築のロビーには昼間はガラス面から心地よい太陽光が注ぎ込み、高校生がお弁当を食べたり、新聞を読む市民の方がいたり、いい意味でミスマッチな心地よい空間。
菊竹清訓は日本を代表する建築家と言って異論ない人だし、海外での作品が少ないからか建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞していないのが不思議なくらいの大建築家。また、菊竹の事務所からは次の世代の有名建築家を数多く輩出し、孫弟子にも有名建築家が多く、日本の建築界においてキーパーソンだ。
山陰には山口の萩市民館、萩市庁舎、島根の県立博物館(登録有形文化財/現県庁第三分庁舎)、県立図書館(登録有形文化財)、島根県立武道館(登録有形文化財)、田部美術館、県立美術館、出雲大社庁の舎(現存せず)、出雲大社新祜殿、鳥取の東光園(登録有形文化財)、境港マリーナホテルと、菊竹清訓の代表作や文化財が多い。萩市民館がどうなるかは分からないが、見れるうちに見ておいた方がいいかなと思う。
【萩市民館】
https://maps.app.goo.gl/rv7Fp5YXxkFMFdfW6
【重要伝統的建造物群保存地区】
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/judenken_ichiran.html