初めまして。黒﨑貴史と申します。台湾の大学で学生たちに日本語を教えつつ,日本語(主に新しいことば)の研究もしています。
突然ですが,みなさんは「日本語の研究」と聞いてどんなことをイメージしますか?おそらく,何をやっているのかいまいちピンとこないのではないでしょうか。
そこで今回は「日本語学」という学問がどんなものなのかを簡単にお話ししようと思います。
コミュニケーションをするには
私たちは,日々ことば(文字や音声)を使ってコミュニケーションをとっていますが,そもそもなぜそれが可能なのでしょう。
それは,日本語のルールや傾向などに関する知識を,私たちが持っているからです。
その知識というのは,主に「文法」「語彙」「音声」に関するものです。
「文法」とは,文を作るときの決まりのことです。例えば,下の①の文は自然だけど,②はおかしいということを私たちは即座に判断できます。それは文法の知識を持っているからです。
また,この文を作るためには,「雨」は名詞で「が」は助詞で「降る」は動詞だということ,「降る」ではなく「落ちる」だとおかしいなど,単語についても知っていないといけません。これが「語彙」の知識です。
さらに,①の文の最後を高く発音すると「雨が降ります?」と疑問文になります。また,「あめ」の「め」を高く言うと「飴」になるということも私たちは知っています(これは地域によって違いがありますが)。これが「音声」の知識です。
でも,これらを細かく習った覚えはないですよね。それなのにいつの間にか知っている。不思議ですね。
心とことば
また,上述の知識に加え,ことばは心理などの影響も受けます。例えば,③の会話を見てください。
A さんは B さんをキャンプに誘っていますが,B さんは天気のことを言っています。この意図は何でしょう?
表面的にはずれた会話に思えますが,B さんは遠回しに断りたいんだと理解できますよね。これには,「A さんを傷つけたくない」という B さんの心理が影響しています。
もちろん,こんな返答はしないという方もいるでしょう。これはルールというより,あくまで一つの傾向です。しかし,私たちはこうした傾向もどういうわけか理解できます。
日本語を見ていくと
私たちは当然のように日本語を使えますが,果たしてどこまで知っているのでしょうか。
例えば,なぜ①は自然なのに②は不自然なのでしょう。また,なぜ③の B さんの意図を理解できるのでしょう。説明できますか?
日本語は日本人にとって一番身近なのに分からないことが多いものです。こうした日本語のルール・傾向などを明らかにしていくことで,ことばを使う「人間」とは何者なのかが見えてきます。それを追求するのが私たちの仕事です。
どうですか?なんだか日本語のことが気になってきませんか?
このコラムを通して,魅力と不思議に満ちた日本語を一緒に探っていきましょう。