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③ネパールで仏画

仏画制作のためネパールに通い始めてから早9年。日本人に生まれておきながら、ネパールでチベット仏画を学ぶことになるとはよっぽど過去世での行いが強烈に影響しているとしか思えません(一体何をしたというのか)

現地でわたしが通っているのは、繁華街エリアの路地裏にあるチベット僧院の敷地内にある工房です。工房といってもお店とひとつになった小さな場所で、そこでは直接仏画を買うこともできます。そのためよく外国人観光客の方がふらりと入って来るのですが、いつも師匠が「この子は毎年日本から仏画を学びに来ているんですよ」とわたしを指差し、「ほら、キミが住んでいるのは日本のどの都市なんだっけ?言いなさい」という流れで毎回毎回作業の手を止められるので、わたしも顔も見ずに「オーサカ」と答えるほどついつい塩対応になります。もちろん住んでいるのは大阪ではないし。さらにそのあと購入に繋がらないと、師匠から「もっと協力しなさい!」と言われるので、負けじと「こういう非協力的な生徒が自分の元にやってくるのもあなたのカルマなんじゃないですか」と言って師匠のカルマのせいにしています。本当ひどい弟子。

 

工房では一日の始めに師匠が山盛りのお香に火をつけ、教室内にある仏画や道具を煙によって清めていきます。入り口の前を掃き掃除したあと、水を撒いてからようやく制作に取り掛かることになります。

画材に岩絵具を使う工房もありますが、ここでは限られた数のポスターカラーをみんなで使うし、そのほか貧弱な面相筆を一本貸してもらうのみで、キャンバスも基本的には自分で作ります。木綿の布をフレームにキンキンに張って、膠と水で溶いた白土を塗り込み、表面を平らに均しながら3日ほどかけて乾かしたものを使います。キャンバスを平らにするのだって、ガラスのコップの底を使って押し当てます。忘れてはならないのが、ネパールは世界最貧国といわれる国であること。停電も今でこそ減りましたが、数年前までは1日のうち電気が点くのも数時間だけでした。仏画を描くにも手がかかる、電気も物資も豊かではないネパールでわざわざ仏画を学ぶ意味はあるのか。それは、この国だからこそ宿る「なにか」の気配を信じているからです。

③ネパールで仏画

毎朝工房に行く前に必ず僧院のご本尊へ1日の無事を祈るのですが、額を僧堂の床に付けたあの瞬間だけは、無防備で弱い自分に戻るような感覚があります。ここで祈ったたくさんの人々によって擦り減った床の五体投地の跡に、どこか懐かしさを感じる自分もいます。うまく説明できないのですけれども。

次回、まだまだネパールのことをお伝えします。信仰についてとか。

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