山口市にある二つのけんちくについて書く。

山口市の中心部、県庁から商店街に続くパークロード周辺には官公庁や文化施設が集まり、ゆったりとした歩道、緑にあふれ秋には紅葉する並木、とても心地よい歩行空間だ。周辺には新旧著名な建築家の設計による建物が並び、地方都市の文化の中心といった雰囲気。

旧県庁舎は明治から大正にかけて活躍した「関西建築界の父」武田五一、県立博物館は現代建築の三巨匠 ル・コルビュジエの弟子坂倉準三、現在建設中の新市庁舎は山口県出身の建築家光井純氏による。

その中でもパークロードの中程に建つ県立山口図書館と同美術館について。

地域の文化を担うこの二つの重要な施設は、鬼頭梓という一人の建築家の設計による。鬼頭は図書館建築の名手として知られ、全国に氏の設計による公共図書館がいくつも残っている(周南市の市立中央図書館も氏の設計)。

同じ設計者による建物をすぐ近くで見比べることができる。とても面白い体験なので、どちらかの施設に行く機会があればもう一方にもぜひ足を向けて欲しい。

打ち込みタイル(図書館は炻器質、美術館は煉瓦)、ガラス、コンクリートの組み合わせによる重厚感もありながらどこか軽みのある外観で、鬼頭作品に多く見られる特徴。内部は吹き抜けのホールが印象的。二つの建物に共通する。

□ 山口県立山口図書館(1973年竣工)

図書館内部はトップライトから柔らかな外光が注ぐ神々しくもある大きな吹き抜けのホールを中心に配し、その周囲に書架や諸室が並ぶ。屋内にはゴツゴツとコンクリート表面を削った小叩きの壁と、整然とした外壁と同じタイルの壁が入り混じる。天井と壁の切れ目からそれらの壁を舐めるように陽光が注ぐ。外側が内側に入り込み、さらにその中を掘り進めて作られたような内部空間。「知の洞窟」といった印象も。

□ 山口県立美術館(1979年竣工)

一方、美術館は正面外観に古代ヨーロッパの石造建築を想起させるかのようなコンクリートのアーチ形状(まぐさ)の連続。「美」のメタファーか。内部はロビーを抜けて正面に高い吹き抜けのホール。こちらは美術館の裏にある亀山の緑を正面の視界いっぱいに取り込む。美術館という機能上、展示空間は動線を考慮した一方通行の一筆書きの展開になるが、展示室内には高低差を利用して目線を変え、一通り見た展示を再度見渡せるなど空間や意識の緩急をつけている。展示を見終わると薄暗い空間を抜けて再び吹き抜けのホールへ。目の前に再び開ける緑の光景は緊張から緩和を迎えホッとさせられる。

同じ建築家による二つの建物を見て体感し、比べてみると、似ているところ、違うところ、いろいろな気づきがあって面白い体験だ。また同じ建築家による山口県の文化を担う重要な二つの力作が同じ道沿いに建ち並ぶからこそ、パークロード全体の良質な雰囲気づくりに大きく寄与している。

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所在地

山口県立山口図書館:https://maps.app.goo.gl/m2qQhFAmx9c5ndVf7

山口県立美術館:https://maps.app.goo.gl/aEsc11Yt3A7HGHnY8