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002. -ソロ活の正義

 

 

生まれ育った京都北部の田舎町から広島へ進学、さらにそのまま西へと流れて山口県民になったのが私。
「もう土地買ったから」という事後報告の連絡を一本よこしてあっという間に家を建て、私を追いかけるように祖母を連れて山口県民になったのが私の両親。

父と母がその記念にと桜の樹を一本植えておおかた三十年、今年もお花見のシーズン、満開もそろそろかと私は、ふらりと出かけることにした。

  『転居記念』の札を下げ鉄製の側溝蓋を取り囲むように太い根を伸ばしたソメイヨシノの木陰に、お腹がすいていた私はひとまず腰を下ろし、作ってきた大きめのおむすび二つをもっと味わえばいいのにペロッとたいらげてから、ようやく敷物を広げ、ゴロンとした。
背中はゴツゴツするけれど、大空へ向かって広がる枝の隙間から五分咲きの花びらと日差しがキラキラと眩しい。

 

六年前の誕生日、それまでの生活に区切りをつけて一人暮らしを始めたばかりの私は、「今から桜を見に行くが一緒に行くか?迎えに行くぞ」と父からの電話を受けた。母も一緒にいる様子、それまで散々迷惑をかけてしまった私にはもう、断る理由が見当たらなかった。
この日はとても天気がよく、うちへやって来父は「なかなかえぇ家やのぅ」となんだかとても嬉しそうで、その後ろから顔を見せた母は玄関先で私の顔を見るなり「よぉ頑張ったなぁ…」とこぼすように言った。
ここで生活を始めて心が晴れたのは私だけではなかったみたいだ、あの時の父や母の姿を、私ははっきりと憶えている。

 

なのに、あの日も満開だったはずの桜のことはちっとも思い出せないなぁ…なんてぼんやりしている内に空模様は若干怪しくなっていた、急ぎ気味に片付け始めた私だが、無性にカラオケに行きたくなってしまった。 

人と行くカラオケはいつしか得意じゃなくなったけれど、歌うことは変わらず好きなのだ。
父も母も歌がうまく、私が幼かった頃すでに、我が家にはカラオケ機材が一式揃っていて、定期的に家庭内カラオケ大会を開催、両親はそれぞれの十八番やデュエットで盛り上がっていた。
私とえいば、中学生の頃には学校から帰ると自室に籠って好きなミュージシャンの曲を大音量で流し、鏡の前に立って歌う日々を過ごすようになっていた。
そんな私が、

祝!人生初一人カラオケ!!

歌うことに集中するため取り急ぎスマホは車の中に置き去ったけど、自動ドア前で不安になり「えーと、まず何をすれば…?」という質問からの、フロントスタッフさんの親切な対応によりどうにか無事に入室。
私は自由だ! …と思えたのは、歌っているのがドアの向こう側から見えることのない良い塩梅の立ち位置を確認してからで、私は人生初めてソファに立ち、あの頃自室で歌ったあの歌やこの歌を何度も何度も歌った。
フロントからの電話で急に我に帰ると、
どうやら’フリータイム20時まで’という条件を使い切ってしまったらしい、予約していた残り3曲を諦めて渋々部屋を出ることになったのだけれど、 外は大雨と相まって真っ暗、入室から6時間が経っていた(!)



両親の想い出に浸ったセンチメンタルなお花見と、ドキドキの初一人カラオケ。
「今日のデキゴト」として日記に記されるのは、後者だったり。

 

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