◼️そして僕は、途方に暮れる / 大沢誉志幸 / 1984年◼️
満月が変わりゆくように、物事も決して同じままに過ぎてゆくことはない。
並んで同じ方を見ていたはずなのに、いつしか互いに環境は変わり、見るもの見えるものも違ってきた。
ほんの僅かなズレは、いつしか大きくなり、それは互いに認識できるほどに大きくなっていた。
スクリーンの中の物語が予期せず進むように、彼らの物語もまた同じ。
ある夜、部屋に帰った彼は、そこに確かに残る気配を感じたが、その姿はもう無かった。
君が今出ていった 髪形を整えテーブルの上もそのままに
それは彼女が扉を閉めた時に、ちょうど時計が止められたように…
部屋の時間は止まっていた。
あの頃の君の笑顔で この部屋はみたされていく 窓を曇らせたのはなぜ
気配と共に残された一通の手紙を読み終えると、ようやく部屋の時間は進みだした。
…そして僕は、途方に暮れる
1984年に発売された、大沢誉志幸の代表曲。80年代を感じさせるシンセサイザーの音色とリズムが特徴的なメロディーに、銀色夏生が描くふられた男の情けない姿が歌われる。「そして僕は、途方に暮れる」この何気ない言葉が、実に素晴らしい。
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歌謡曲にブラジル、フレンチ、ジャズにアイドル、気の向くままに買い集めたレコードを前に気づくのは、“音楽が好きなんじゃない、レコードが好きなんだ”ということ。