以前,私が担当している作文の授業で,学生が書いた作文の中に次の表現がありました。
(「不思議だなと思う日本の習慣について」というテーマでの作文)
「日本では、風邪を引いても、氷やアイスなど冷たい物を食べる人がいるそうです。」
これを読んだとき,私は思わず「引いたら」に修正したくなったのですが,続きを読むと,
「台湾では、多くの人が病気の時に、熱い食べ物を食べたり、お湯を飲んだりします。」
とあり,文化の違いだったのかと反省し,修正をとりやめました。
「たら」と「ても」の違い
言語学的に「たら」は予想・常識通りの結末を導く表現で,「ても」は予想・常識とは違う結末を導く表現だと言われています。「ても」を選んだということは,「風邪のときに冷たい物を食べるのはおかしい」と考えているということになります。
※「たら」を選んだ人にも「おかしい」と思っている人もいるでしょうが,ここはひとまず,ことばの使い方から考えます。
現に,私は冷たい物を食べてもいいと思っていました(本当はダメらしいですね)。
しかし,本当に日本と台湾で違いがあるのか気になったので,調べてみました。
「たら」と「ても」の文化差
今回,Instagramのアンケート機能を使いました。示した文は以下の通りです。
使うとしたら,①と②の文どちらを使いますか?
①風邪を引いたら、冷たいものを食べる。
②風邪を引いても、冷たいものを食べる。
今回,日本人49名,台湾人(日本語学習経験者)46名の方々が回答してくださいました。
この結果を示したのが【図1】です。
これを見ると,①を選んだ割合は日本人が多く,②を選んだ割合は台湾人が多いといえます。つまり,風邪を引いたときの対処法には,文化的な違いがあるといえるかもしれません。
ことばの自然さ
この結果からもう一ついえることは,「ても」がいいか「たら」がいいかは,文法(文を作るルール)的な問題だけでなく,文化的な要因によっても決まるということです。
どちらの表現を使っても文法的には正しいけど,状況によってはおかしいということはよくあります。例えば,「この度,退職することにしました」や「大学に合格しました」より「この度,退職することになりました」「大学に合格できました」の方が丁寧ですよね。それは,日本語の文法に加え,文化的な要因が影響しているからです。
言語を教えたり学んだりすることの難しさの一つはこれです。「文法的な正しさ」だけで済めばいいのですが,そうは問屋が卸しません。
ただ,ある言語を学ぶということは,その言語の文化圏を知るということにもつながります。
海外で日本語を教える身として,学生たちには日本語学習を通して日本の文化や慣習を知ってほしいし,私も中国語学習を通して台湾の文化や慣習を知りたいと,改めて思いました。