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『空を包む – 崔在皓展』に向けて

今回の展示はSTOLENのオーナー岡村さんと陶芸家のジェホさんの一年前の約束から始まり、念願が叶い実現した企画だ。お二人はぼくにとってはものづくりをされる先輩であり、岡村さんは地元の高校の先輩でもあり、普段よく声を掛けてくださるお二方の晴れ舞台の末席に加えていただき、後輩としては大変光栄でありつつもとてもプレッシャーなのである。

 

今回の展示のコンセプトはタイトルにある通り「空を包む」である。さて「空(くう)」とは?

これは剣豪宮本武蔵が剣術の極意を記した『五輪書 空の巻』だ。

 

ジェホさんが今関心を寄せるのが老荘思想の「道/TAO」の思想とのこと。若い頃に少し学び、コロナ時期に再び触れる機会があり、その頃から「道/TAO」の精神で白磁と向き合い続けているそうだ。しかし、言葉は聞いたことがあるが、哲学や思想に触れる機会が少ない私たち日本人がジェホさんの到達した境地にいきなり近づくのは難しいかなと正直思った(少なくともぼくには難しかった)。

 

そこでその足掛かりになるものはないか、展示という場を介して作品を見るだけでなく、ジェホさんに近づけるためヒントは無いかと考え、行き当たったのが『五輪書 空の巻』だった。この「空」を補助線にすれば、ジェホさんやジェホさんの白磁、もしかしたら目の前の展示のその先に私たちは行けるのでは無いかと思った。さらに、ものを作ることを生業にする岡村さん、ジェホさん、自分を繋ぐ梯子になるのでは無いかとも。

武蔵は『五輪書』を仏教や儒教、兵法と関係なく書き記すとはしているが、仏教における「空」の概念であったり、神道や日本美術での「不在の在」であったり、日本人にとっては「道/TAO」よりはもう少し近いところにある感覚だ。

さらに「空」から想像を飛ばしていくと、ものづくりでは無いものを目の前に現出させていく中で、他人には見えない空をそこに見続け手を動かし続ける。次第に形作られていくことによって、無いものが見えてくる。特に陶芸家であるジェホさんはその空を両の手で包みながら、そこに無かったものを白磁として生み出す。

 

さらに踏み込めば、中国の神仙思想では壺の中に別世界がありそのことを「壺中天」と言う。ちなみに老荘思想と神仙思想が融合して道教が生まれる。ジェホさんが生み出す独自の質感とラインを鑑賞する際に、満月壺や彼の白磁に包まれた空を想像してみたらどんな世界がそこに内包されているだろうか?

 

STOLENに展示される名作椅子の数々。それらの座り心地は当然のこと、シルエットを眺めるだけでも惚れ惚れする。このとき、名作椅子に包まれた空を含めて美しいと人は感じていないだろうか?

 

そういった、ただ白磁を見る、名作椅子に座ると言うのではなく、ご来場いただいた方々に「空」から色々な補助線を引きながら、その先に触れ、その空間を楽しんでいただきたい。

 

ジェホさんの展示をお手伝いさせていただくのは二回目で、前回は3年前に桜雲洞さんプロデュースのもと特別展観「白磁に生きる」崔在皓と題し、盛唐の詩人李白の代表作『月下獨酌』を下敷きに展示の構成をさせていただいた(参考:https://nimo2.jp/20/ )。前回は李白、今回は宮本武蔵。てんのえは地域に文化の蓄積をすることを目標に活動している。「白磁に生きる」でジェホさんの生き方に触れ、「空を包む」でジェホさんのつくる姿勢に触れと、連綿と続いているものであり、今後も続いていき、地域に文化が蓄積されていけばと考えている。

《会期》

2025年6/27(金)-7/5(土) 12:00-18:00

※月・火は定休日

作家在廊予定日は6/27,28,7/5

●レセプション&崔在皓氏トーク

6/28(土)17:00-20:00

 

《会場》

STOLEN MØBLER

周南市銀座1-32 TOKUYAMA DECK208

《お問い合わせ》

info@stolenmobler.jpまたはInstagram @stolen.official

 

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