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「愉しき熱帯」番外編 寒帯も亦愉しからずや

熱帯の話が続いたので、今回はぐっと趣向を変えて寒帯の話をしましょう。

寒帯、どれくらい寒いのか?場所にもよりますが、真冬は気温-40℃はごく普通、-50℃を下回ることもまれではありません。しか、それに加えwind chill(風冷え)という、による冷却効果で、体感温度実際よりさらに下がります。強い風が吹いていると、無風状態に較べ、同じ気温でも体に感じる温度はぐっと低いのです。カナダなどでは、気温に風速の要素加えた数式で体感温度を算出して毎日発表しています。

北極圏の陸地の大部分はツンドラと呼ばれる、地に永久凍土がある原野で、樹木はほとんど生えません。地平線まで遮るもののない平らな大地にはしょっちゅう強い風が吹いていて、台風並のブリザード(地吹雪)頻繁に起こります。

石原裕次郎映画「風速40米」の主題歌「おい風速40米が何だってんだい、エ、ふざけんじゃねえよ」と嘯きますが、-40℃でそんな強い風が吹けば、“ふざけんじゃねえよ”などと言ってはいられません。手元に正確なチャートがありませんが、体感温度-100℃近くなるはずですから

ある時、強風が吹く雪原で、カメラマンがじゃまになると言って、防寒用の耳当て付き帽子を数分間脱いで撮影しました。するとその晩、彼の耳が2倍にも膨れ上がりました。凍傷になってしまったのです。急いでヘリコプター病院に送、耳切断の危機を辛うじて免れました。

-40℃の中で撮影中の筆者

 

人類の起源は、約200万年前のアフリカ。それから多くの人類進化と絶滅を繰り返しいま残っているのは、約20万年前に出現したと考えられている我々ホモ・サピエンスだけです。つまり、現在地球上に住んでいる人間は全て、学名Homo sapiens sapiensいう一つの種に属します。

たった1種の生物が、地球上のあらゆる環境で暮らしている例は他にありません。例えばクマの仲間熱帯の小型のマレーグマから、北極圏の巨大なホッキョクグマまで様々な種類がいます。日本にも本州のツキノワグマと、北海道のヒグマがいるのはご存じでしょう。それらは、元をたどれば一つの種から分かれてきたと考えられていますが、今は生物的に別の種です。それぞれが異なる環境に適応し、体の構造や生理機能など進化させていったです。

ホッキョクグマの調査に同行 クマが麻酔から覚めかかっている

 

ところが、熱帯アフリカで誕生した“裸のサル”ホモ・サピエンス進化ることなく極寒の北極圏にまで暮らせるようになりました。それが出来たのは、他の動物の毛皮を石器で剥いでにまとさらにそれを針と糸で縫い合わせ、活動しても脱げないよう加工したこと。また、火を自在にコントロールして暖をとったこと。つまり、生物的にではなく、文化的に極寒の環境に適応からです。

人類の始まりは、二本の足で立ち上がって歩き始めたところからその結果、垂直になった背骨で大きな脳を支えることが可能になり、また前肢が歩行から解放され指先の器用さが得られました。熱帯生まれのホモ・サピエンスを、極寒の地まで移住を可能にした器用な指が、モナリザを描き、第九交響曲を演奏するようになるまでもうほんの一息です。

真冬の空を彩るオーロラ

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