小粥です。ネパールのことばかり語って申し訳ないんですが、ここで文字を通してみなさんがネパールに行きたくなるよう少しずつ洗脳しています。そろそろ近所のコンビニでアルバイトしているネパール人留学生のことが気になり始めた頃だと思うので、一度往復航空券の金額だけでも調べてみてはいかがでしょう。
仏画修行でネパールに通っています、と言うと一番多く聞かれる質問が「ネパールの食べ物って美味しいんですか?」というものです。それに対してわたしは「もちろん美味しいですし、宇宙で一番美味しいラザニアはネパールにあります」と答えます。不意に出てきたラザニアに大体の人は「え?」と聞き返すし、そもそも本場イタリアで食べたことがないわたしが言う「宇宙一」ではあるけれど、毎回会話を乱してでも主張すべきラザニアがネパールにはある、と思っています。
ネパールだと国民食であるダルバートはもちろん美味しいし、そのほかにもチベット料理、イタリアン、中華、フレンチなど、首都カトマンズにおいては世界中の味が楽しめます。日本食レストランもあるので、長期滞在でやさぐれてきたメンタルをカツ丼やラーメンで速やかに整えることができます。ネパールは主食がお米なのも嬉しいところで、ヒマラヤ山脈のイメージから寒いと思われがちですが、日本の奄美大島と同じ緯度にあるため意外と暖かく、野菜も豊富にあります。飲み物だとネパールコーヒー、チヤと呼ばれるミルクティー、トゥンバというヒエ酒、ロキシー、ククリラム…挙げればキリがないほど食文化の豊かなネパール。ただ、わたしにはこの国で忘れられない出来事があります。
あれはカトマンズの五つ星ホテルの朝食ビュッフェ会場─。なんでそんなラグジュアリーなところにいたかというと、帰国のための深夜便が急遽飛ばなくなったために、ただ航空会社に連行されて詰め込まれただけ(嗚咽)。
五つ星というだけあって選びきれないほどの料理や飲み物が並ぶその会場では、各国の富裕層と思しき宿泊客たちがそれぞれに朝食を楽しんでいました。わたしもまあ仕方ないな〜航空会社許してやるよ!とフルーツ盛りに飛び跳ねていると、シャツにスウェット姿で髪を無造作にまとめた白人女性がスッと会場に現れました。彼女は豪華なビュッフェにまったくテンション上がる様子もなく、脇目も振らずにデミタスカップのエスプレッソと小さなマフィンをひとつだけ取って、元々決めていたかのように窓辺の席についたのです。
か、カッコいい…
わたしはひどく衝撃を受けました。ビュッフェなのに。ビュッフェにおいてこの振る舞いは──完全に解脱してる。いまわたしがお皿を取るところからやり直しても、いかなる食べ物に対してもクールな態度を取り、普段お目にかからないグァバジュースにも引っかからずにいられるかは分からない。そんなビュッフェに翻弄されている自分が恥ずかしくなりました。
この出来事は、食の豊かなカトマンズにおける究極の悟りを目撃した体験として語り継いでおります。それから幾度となくビュッフェで食事をする機会があったものの、未だ解脱には至れずにいる愚かな自分なのですが…いや?もしかして彼女は低血圧で、朝からそんなに食べられないだけだったのかもなぁって、今これ書いてて思っちゃった。