今さらですが、阪神タイガースが38年ぶりに日本一になりましたね。さらに、岡田監督が「優勝」を「あれ」と言っていたことが話題になり、2023年の流行語大賞に選ばれました。おめでタイガー。
ここで気になるのが、なぜ「あれ」なのでしょう?「これ/それ」じゃダメなのでしょうか?これには、深いあれがあるんです。
みなさんはなぜだと思いますか?
「あれ」の使い方
「これ/それ/あれ/どれ」は何かを指し示すときに使うことから、指示語と呼ばれ、一般的には「こそあど」とも呼ばれます。今回は字数の関係上、「あれ」を中心に説明します。
「あれ」は、①のように自分からも、そして自分と話している相手(=聞き手)からも離れているモノを指します。
また、実際にはその場にモノがない場合でも使えます。例えば②のように、何かを思い出す時など。
さらに重要な点は、②の会話では、AさんだけでなくBさんも「あれ」の内容について知っている、という前提があることです。
このように、指示語の「あ」には「聞き手と共有している何かを指し示す」という意味もあります。
そのため、③のような秘密を話す場面でも使われます。
「あれ」のワケ
では、なぜ岡田監督は「優勝」を「あれ」と呼んだのでしょう。
まず、文春オンラインの記事(下部「参考サイト」を参照)によると、「優勝」と明言すると心に隙ができてしまうと考えたからだそうです。つまり、秘密にするべき情報と考えたわけです。
また、「これ/それ」じゃないのは、優勝というものがすぐには手に入らない、遠くにあるものだからでしょう。
さらに、優勝したい気持ちは選手やファンとも共有しているはずです。そのため、「あれを目指す」と言っても意味が伝わるわけです。もし、野球を全く知らない人が「今年の目標はあれです!」と聞いたら、理解できないかもしれません。
そのため、「あれ」を使うとチームやファンとの一体感が生まれ、仲間意識も強まります。
このように、「あれ」を使ったのには様々な要因が考えられます。
ちなみに、阪神がセ・リーグ優勝を果たした際のニュースでのインタビューで、ある女性がこう言っていました。
「今日からはもう、あれじゃなくてこれだよって…」
遠くにあった夢がようやく自分たちのものになった喜びが、指示語で表されていますね。
認識の表れ
指示語には、それを使う人の認識の仕方が表れています。例えば、「自分や相手からの距離はどれくらいか」「相手も知っている情報か」といった認識です。
そして、指示語は言語によって違います。例えば、中国語(台湾華語)は「這(こ)・那(そ/あ)・哪(ど)」の3つです。「那」だけで「そ/あ」を表すので、日本語とは認識の仕方、つまり世界の表し方が違うと言えそうです。
指示語は、私たちが今見ている、感じている世界をどう捉えているかを知る手がかりの1つです。
是非、「こ・そ・ど」についても考えてみてください。