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ネパールでセレモニー

あれは何度目かのネパール滞在中、仏画修行に励んでいたある日のこと。

「今日はセレモニーをしてもらいます!」

来客がなくいつも掃除ばかりしている仏画の先生が、急にこんなことを言い出しました。セレモニー?なるほどその日は、ちょうどネパール暦の新年にあたるタイミングでもありました。

「ネパールのニューイヤーだから?」

と聞きますと

「それもあるけど、今日はうちの工房の開業記念日なの。スワヤンブからお坊さんに来てもらうことにするわ」

とのこと。

(※小粥の脳内翻訳では先生の口調がオネエ言葉になる)

 

さすが宗教行事が多いネパール、わたしも機会あるごとにあれこれと参加してはいましたが、個人向けの儀式は初めてなので興味津々。しかもネパール最古とされる名刹・スワヤンブナートからお坊さんを呼ぶとは…先生も見栄っ張りだな。

思い立ったがセレモニー。そこから慌てて準備をすることになるので、お供え用の器などを近所の駄菓子屋のおばちゃんに借りてくる先生。素人目に見ても圧倒的な準備不足でありながら、手伝おうにも段取りが分からないために先生ひとりでバタバタとテンパっている状況。「法具はこれで合ってるっけ」「お酒がない」「ヤバイお酒売ってない」「もうコーラでいいか」「うん、コーラよく冷えてる」とか言ってる。先生、神仏にはやっぱりお酒がいいと思うんですが。

そこにのっそり現れた口数の少ないお坊さま、目はうつろ。役者は揃った──。そうしてチベット仏教の厳粛なるセレモニーが始まったのです。

 

チリンチリ〜ン

「○♧$%*〒▲〜」

ピロリロ、ピロリロ…

「हजूर?(もしもし)」

電話に出た〜!

お坊さんが読経の途中に電話に出た。諸神諸仏も「!?」。思わず先生を見るわたし、遠い目をする先生、何事もなかったかのように読経再開するお坊さま。

読経が終わり、部屋中に生米とコーラを撒き散らすお坊さま。カオス。綺麗好きの先生、部屋の虚空を見つめてる。

 

30分ほどでセレモニーが終わるなり、お坊さまはタクシーでさっさと帰っていきました。こ、これがチベット仏教の厳粛なるセレモニーなのか…。残ったみんなでお供え物のバナナをもそもそ食べつつ、「電話出ていいんかあれは」などと話して、黙々と床掃除をしたのでした。

 

そのあとうちの工房では空前のコーラブームがやってきたんですけど、えっと、どこからどう突っ込んでいいのやら。

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