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7.西行忌

彼女がこの地を離れるまで、
あとわずかな時間しか残っていない。
それは大きな別れとして語られることはなく、
予定として、静かに共有されているだけだ。

彼女は海を渡って来た。
外から来た者として迎えられ、
ここで暮らし、話し、
この社会の中に確かな揺れを残した。

彼女がもたらしたのは完成ではない。
止まっていた関係が一度ほどけ、
考えが言葉になり、
摩擦を含んだまま流れ出した、
その過程そのものだった。

いま、
彼女はまだここにいる。
声も、姿も、存在感も、
失われてはいない。
それでも私たちは、
彼女のいないあとの時間を、
すでに思い描き始めている。

雪を手のひらにのせると、
まだ形は崩れず、
冷たさも確かにある。
いまはまだ、
溶けてはいない。

けれど、
日差しは少しずつ変わり、
その雪がいずれ水になることを、
誰もが知っている。
失われるのではなく、
次の季節へ移っていくのだということも。

彼女が去ったあと、
形も温度も消えるだろう。
だが、
清められた感覚だけは、
しばらくこの場所に残る。

春になるまでは
まだ時間がある。
雪は白く、
手のひらの中にとどまっている。
しかし、
その向こうに春があることを、
私たちはすでに感じ取っている。

「雪てぢし谷の古巣を思ひ出でて花にむつるる鶯の聲」

2月15日は西行忌

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