◼️Full Moon / Olivier Peters Quartet feat. Joan Johnson (1980)◼️
夜露が線路を濡らす夜、
まるで青春映画のように歩いた。
大学によって拓けた田園は、どことなく浮わついていて、どこまでも歩いて行ける気がしたから。
学生達で賑やかな公園にあって、小さな池だけは人も疎らで、東屋から見る空は月があるだけだった。
水面に写る月を並んで見ながら話し続け、時折、顔を見合わせては会話が途切れ、二人の距離が近くなる。
過去、現在、これからを話しながら、いつか読んだ小説が頭を過った。
「もしも大事な人に出会ったら、その手を決して離してはならない」
いま、こうして繋いだ手は、離さずにいられるのだろうか。
…月は何も答えずに、ただ微笑んでいた。
ドイツのサックス奏者、Olivier Petersによる一枚は、1980年の録音だけあってフュージョン色が強く、ヨーロッパ独特の正確でタイトな演奏中心。アルバム中、数曲は女性ボーカルが加わるが、“Full Moon”はサックスとスキャットが静かな水面を思わせる冒頭から、ピアノが入るや一転、サンバのリズムになり、そこに女性ボーカルが歌う一曲。幻想的な曲には月がよく似合う。
月がきれいな夜は幾度となく知っているけれど、その夜ほどの月はあれから知らない。
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歌謡曲にブラジル、フレンチ、ジャズにアイドル、気の向くままに買い集めたレコードを前に気づくのは、“音楽が好きなんじゃない、レコードが好きなんだ”ということ。